後藤を持ちながら

後藤を持ちながら

吹奏楽から仮面ライダーまで

たなばたの夜の冒険

こんにちは、トサカです。

昨日、後輩たちの演奏会を聴きに行きました。

今年に入って、ぼくはたくさんの演奏会に行きました。ジャンルは吹奏楽のものが多かったのですが、昨日の演奏会はこれまで行ってきた演奏会の中で最も「吹奏楽らしい」演奏会だったと思います。

今日は、昨日の演奏会の感想を「吹奏楽というジャンルの好きなところ」を挙げながら話していこうと思います。

 

止まるんじゃねえぞ

自分が吹奏楽というジャンルが好きな理由の一つに「いまだに止まらない音楽である」という点があります。

 

例えば、よく知らない人から勘違いされやすい管弦楽と比較してみましょう。管弦楽はその音楽性から「クラシック」と呼ばれます。

クラシック (classic) は、「階級」を表すラテン語「class(クラス)」に由来し、「最高クラスの」=「一流の」という意味であるが、ここから転じて「古典」、「格式のある」の意でも用いられる。

 研究社ライトハウス英和辞典』1984年、237頁。)

そう、クラシックには「古典」という意味があります。よって、なかなか「いまの」曲を聴ける機会、演奏できる機会って限られているんですよね。

だいたいどこの管弦楽の演奏会に行っても、メイン曲は「すでに死んでいる作曲家」のものが多いです。それだけ先人の成果が大きいからなのですが、逆に考えるとクラシック音楽「すでに成熟しきっているジャンル」とも考えられます。

 

この点は、吹奏楽とは大きな違いがあると思うんですよね。

いまだに新たな曲がガンガン発表、出版されるし、その曲を聴く機会にも恵まれています。その中からいろんな人から(それこそ中学生から還暦を迎えるような人にまで)演奏されることで時の試練をくぐりぬけ、後世に残したくなる「クラシック」な曲も生まれます。

つまり、吹奏楽はバリバリ現役ので止まらない「音楽ジャンル」なのです。

 

現役である理由

じゃあなんでここまで「現役の音楽」でいられたのか。

もちろん「プレイヤーの層の厚さ」もあると思うのですが、ぼくは「ジャンルをいとも簡単に飛び越えられること」が大きいと思っています。

 

吹奏楽でできる音楽のジャンルってかなり広いんですよね。誰もが知っている曲からジャズのスタンダードナンバー、数百年の重みある管弦楽曲やマーチ、それらを全て堪能できるジャンルってかなり稀有だと思うのです。

例えばビッグバンドだとどうしても「ジャズの文法」から抜けきれないんですよね。スウィングのリズムにのって、ジャズの音色で曲を作ってしまうため、どんな曲でもジャズの風味が強くなってしまいます。カレーを乗せたらなんでもカレー味になってしまうのと同じですね。

その考えでいくと、「吹奏楽固有の文法」ってあまり癖がないんですよね。同じ管楽器の奏法でも、管弦楽で必要とされる音を出す時もあれば、ジャズっぽく吹くことが必要なときもある。この自由さが、演奏できるジャンルの広がりにつながっていると思います。

 

そして、吹奏楽オリジナルの曲はこの「ジャンルレスさ」をうまく生かし、非常に面白い作品が多く作られています。

シンフォニックな響きを持つコラールもあれば、スウィングに身を任せたリズム主体のの曲、はたまた和洋を上手く組み合わせ、それを多くの人の感性に響くようチューニングされた曲もあります。

avoirgoto.hatenablog.com

 

ぼくは、吹奏楽の魅力が「様々なジャンルを取り込んで進み続ける」というその姿勢にあると考えています。

 

航海までの道のり

 

今年の関西は、二つの大きな天災に見舞われています。

6/18の大地震、そして歴史的大雨。まだインフラも復旧していない箇所もあります。時代が時代なら大仏の建立計画が進められていたでしょう。

演奏会を開くまでの道のりはかなり困難なものだったようです。当日になるまで「演奏会が開けるかどうか」ですらわからない状況でありました。

 

でも、演奏会は無事開催されました。

それだけでももうだいぶ心に迫るものがありますが、今回の演奏会で真によかったのは吹奏楽のジャンルレスさが光っていたこと」です。

 

ワーグナーの喜劇、サマーウォーズパイレーツオブカリビアンの劇伴曲、ジャズアレンジの「私のお気に入り」に「ひょっこりひょうたん島」、吹奏楽の原点であるマーチなど、非常に耳を楽しませてくれました。

メインの清水大輔「ミュージックアドベンチャー」は、吹奏楽の持つ響きと打楽器が形成する分割されたリズム、そしてだれでも親しむことのできるメロディと、「他の音楽ジャンルのいいところをかっさらった」曲であり、非常に完成度が高かったです。

 

そして、特筆すべきは何といっても二部の企画ステージです。

海賊や海軍に扮した70人のバンドメンバーが、ホールの特性を最大限に生かしたステージを作っていました。

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この写真にあるように、バンドが演奏している後ろをスクリーンにし、映像を映し出すことによってまるで自分たちが一本の映画を観ている、そんな風に感じました。

ジャズを演奏しながらバカ騒ぎする海賊、海兵の行進を表すマーチ、原住民との交流などを、音楽と映像、身振り手振りで表していました。

 

一番盛り上がったのがクライマックスです。

副指揮者扮する海軍幹部がバンドを指揮している中、唐突に正指揮者扮する海賊の長が客席に向かって指揮を振り出しました。ライトアップされた客席にはトロンボーン・チューバ奏者が二人ずつ。パイレーツ・オブ・カリビアンの伴奏を勇ましく吹きだしたのです。

観客がそちらを驚きながら観ているうちにバンドは着替え終わり、指揮者が交代。全員で海賊の歌を奏でだしました。この演出を見て、思わず身を乗り出して聴きだしてしまいました。

 

結局海賊は宝を見つけたのですが、それは新たな地図。まだまだ海賊の、そしてバンドとしての「吹奏楽への冒険」は終わらないことを、あのラストは示していたんじゃないか。なんて思っています。

物語はエンドロールをスクリーンに映しながら、パイレーツ・オブ・カリビアンのテーマを演奏して幕を閉じました。

 

そして、なんとアンコールは酒井格の「たなばた」! 

 吹奏楽界で多く演奏され、「クラシック」の呼ぶことのできる名曲です。

普段シンフォニックステージでしか聴かないため、演出ありで聴いたことがなかった曲なのですが、アンコールということもあり、がっつり演出の入った状態で聴くという珍しい体験ができました。

夜空に浮かぶ星々を想定したバックライトや、今回の演奏会でともにステージを作った部員の名前が流れるスクリーンなどを見ながら、今日という日にこの演奏会を聴けた喜びをかみしめていました。

 

チケットやパンフレットや企画ステージ、そしてメイン曲を考えてみると、今回の演奏会のテーマは「未知への冒険」だったように思えます。苦難が何度もあった冒険が、「たなばた」の美しいメロディで締めくくることができたのをみて、「吹奏楽らしい」演奏会だったなと思いました。

あらゆるジャンルに乗り込んで、それらをバランスよく聴かせる演奏技術、そして、その扱える音楽の幅の広さを生かし、「新しいことをやっていこう」とするバンドとしての精神がしっかり伝わってきた、いい演奏会でした。

 

 

さて、そんな彼らの演奏会が12月にも行われるそうです!

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名曲「ローマの祭り」を筆頭に、吹奏楽の新たなステージを見せてくれることでしょう。今からがすごく楽しみです。

 

ではでは。