後藤を持ちながら

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吹奏楽から仮面ライダーまで

ウーロン茶のほうが好きです

こんにちは、トサカです。

本を買いました。村上春樹の「職業としての小説家」という本です。

 

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

 

 

簡単に言えば、彼がどんな姿勢で「書く仕事」と向き合っているかについて書かれた本です。

 

正直言って、ぼくは彼の書く小説が苦手です。

話し方は回りくどいし、息を吐くように誰かと寝ちゃう尻軽が本当に多いし、なにより比喩やら話の本筋やらが難しすぎて理解できない。最初期の作品と「ねじまき鳥クロニクル」くらいしか読んだことがないので何とも言えないのですが、この風潮はきっと今も変わっていないでしょう。

でも、彼の書く「小説以外の作品」はすごく面白いのです。

彼の旅行記一つ手に取ってみても、平易な言葉だけでぼくが(そして大半の読者が)見たことのない世界の景色を豊かに表現しています。

 

エッセイなどの「小説以外の作品」を書くことについて、

僕にとってはエッセイというのは、あえて言うならビール会社が出している缶入りウーロン茶みたいなものです。いわば副業です。 

と、彼は発言しているのですが、今の自分にとってはビールよりもウーロン茶のほうが好きです。この辺はまぁ合う合わないの問題なので仕方ないでしょう。別に下手にけなすことも、無理に持ち上げることもしません。

何はともあれ、「小説以外の作品は面白い」というこれまでの自身の経験に違わず、この本も非常に面白く読ませていただいています。

 

この本を一言で「面白い」と表現しましたが、その面白さには二種類存在します。

一つ目は、「文章で表現する」という営みを行う際に非常に参考になる考え方が書かれてあり、興味深い、つまりinterestingとしての面白さ。

二つ目は、「村上春樹」という作家がとる行動が理解できず、思わず笑ってしまう、つまりfunnyとしての面白さです。

一つ目のinterestingとしての面白さはのちのちこのブログでも紹介するとして、今日は二つ目であるfunnyな箇所、特に読んでてゲラゲラ笑ってしまったシーンを紹介します。

 

それは、彼が「小説家になる」と決めた瞬間を振り返っているシーンです。

彼の二十代前半の人生は「通常の手順とは、順番がまるっきり反対になっている」もので、結婚してから仕事を始め、そのあとで大学を卒業するというものでした。

なんでこんな順番になってしまったのかは省かれてしまっているのですが、とにかく彼は二十代を「ジャズバーの経営」に捧げました。30歳に近づくにつれて、「そうか、人生ってこんな風にするすると過ぎていくんだな」と、彼は考えていたそうです。

 

さて、エッセイは1978年の4月にまで飛びます。

彼はひいきのスワローズの試合を観に行きました。ちょうどセ・リーグの開幕戦だったのですが当初は人気がなく、ガラガラの外野スタンドで寝転んでビールを飲みながら試合を観ていました。その時の文章を引用します。

 

広島の先発ピッチャーはたぶん高橋(里)だったと思います。ヤクルトの先発は安田でした。一回の裏、高橋(里)が投げると、ヒルトンはそれをレフトにきれいにはじき返し、  二塁打にしました。バットがボールに当たる小気味いい音が、神宮球場に響き渡りました。ぱらぱらというまばらな拍手がまわりから起こりました。

僕はそのときに、何の脈絡もなく何の根拠もなく、ふとこう思ったのです。「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」と。

 

いや、いやいやいや。

別にそのときに二塁打を打ったヒルトンが自分と重なったわけでもありません。

一回裏から得点を取れるチャンスをつかんだのを見て、自分もできると鼓舞されたわけでもありません。

なんじゃこの動機は。脈絡がないなぁとけらけら笑っていました。

 

まぁでも、綺麗な理由で物事を始めることって、現実世界じゃなかなかないですよね。

自身のこれまでの生活の積み重ね(彼の場合はずっと本の虫で、ひたすらに本を読み続けていたこと)と、ある種の突発的な自信がなければ、「そうだこれをしよう」という考えにはなかなか至ることができません。

ひとしきりそのシーンで笑った後、妙に納得をしてしまいました。きっと書き方が上手いのも大きいんだろうなぁ。

 

人はだれしも「他人とは決定的にずれているところがある」とぼくは考えています。彼は、その自身のずれを明確に理解し、かつそれを正当化せず、「他人が感じるであろう違和感」をそのままに読者に伝える文章の書き方をしています。

彼は、自身のところどころの考え方が世間一般のものとは大きく外れた考え方であることをきちんと理解しています。また、彼の書く文章は他人が「読んでいて感じるであろう違和感」をコントロールできていると一読して感じています。

「ここ、変なこと書いてあるな~」という感想を抱いた時、おおかたそのあとに「お前がここを読んで変だと感じた理由はこれじゃい!」とその根拠を突き付けられるのを何度か経験し、やっぱすごい小説家だ…。と驚いたのを覚えています。

 

いろんな積読をほっぽらかして買ってしまいましたが、読めてよかったと思っています。一つ目の面白さで芽生えたネタは、また機が熟したら書いていこうと思います。

 

ではでは