紹介の才能
こんにちは、トサカです。
映画「オデッセイ」の面白さに惹かれ、原作の本を買ってしまいました。
ミーハーなのでこういう流行り物はすぐ買っちゃう pic.twitter.com/HJNUoSTKnI
— トサカ@??? (@slaveofmuse) August 4, 2018
ですが、まだ一文も読んでません。電車の中でパラパラと読み進めた「もう一冊」がかなり面白く、そちらの方に今はかかりっきりです。
Running Pictures―伊藤計劃映画時評集1 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/09/30
- メディア: Kindle版
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「伊藤計劃」
いとうけいかくと読みます。彼の処女作「虐殺器官」の半分くらいを読み終えるまで、ぼくは「いとうけいそく」だと思っていました。
彼の作風はハードSF。管理社会の閉塞した、どことなく違和感の残る空気と、まるで眼の前にあるかのような息遣いで書かれた近未来の生活がぎっちぎちに詰まった作品です。
この本は、そんな彼が24歳のときに始めた「映画の紹介文」です。
映画批評っていうのはレビューではない。もっと体系的だし、少なくともウェブにあふれる「面白い」「つまらない」といった感想程度のゴシップではない。
と語ったうえで、自身は映画批評をしないことを宣言します。それは、彼が「紹介する映画を魅力的に魅せるための戦略」と話します。
一番最初に紹介された映画が「エイリアン4」。1997年の作品です。ちょうど「スターウォーズep1」、「マトリックス」をリアルタイムで上映していたころのようで、CGが広く映画に使われだした「SF黄金期」と言って過言はない世代です。
彼は自身が宣言したとおり、諸々の映画に対して好き放題自分の感想を言っています。ゲラゲラ笑えます。
「原作に忠実だから、原作を読んだことがある人はもう観る必要がない」と言い切った「スフィア」。「○イケルベイの下品なカメラワークが炸裂」と愚痴った「アルマゲドン」。「4℃(映画制作会社のこと、AKIRAとか作ってる)ってあまりCGI上手くないんでしょうか」と言ってしまった「スプリガン」など、まぁ辛辣です。
一番笑ったのは第七回。1998年公開のゴジラ(通称エメゴジ、ゴジラの名を冠しながらイグアナみたいな外見をしていたため、当時日本でだいぶ話題になったらしい)を観たときの感想。ちょっと引用します。
それになにより、一本の映画というのは、単独の作品として観られるべきで、原作やオリジナルと比較した優劣などというものは、日々の雑談としてネタとして使うことは許されても、インターネットや雑誌など、こうした公の場面における「意見」として言われるべきではありません。
凄く立派な意見です。
しかし、この記事のちょっと前の第四回「ジャッカル」という映画の感想では、「いや~どうしても原作と比較しちゃうと普通になっちまったな~」と話しています。いやさっき原作比較dis自分がしとったやんけ。
書籍化されるとは一切思っていなかったのでしょう。ここまで美しく棚に上げられるともはや笑いが出ます。
では、批判ばっかりかというとそんなわけではありません。この本では「著者が面白い」と思った映画しか挙げていません。あれだけぼろくそにけなしていた映画に面白いところがあるのか?それがあるんです。
美大の映像学科卒である彼は、その膨大な知識と情景を切り取るセンスによって、映画の「ワンシーンごとの価値」を高めていきます。
彼は、例えば「スフィア」では深海に棲む未知の生物が出てくるシーンで目を見張り、「アルマゲドン」では軍用機や軍人の敬礼などが畳みかけられるシーンで燃え、「スプリガン」でありえないほど動くその画に感心しています。
彼の視点は非常に自由です。これまでぼくはやれ「役者の演技」だ「物語の伏線回収のすごさ」だと非常にちっぽけな物差しで映画を観ていた気がします。
彼の感想を読んでいると、彼は「物語」だけではなく、映画という「二、三時間だけ実在する世界」を心から楽しんでいることがわかります。その世界の住民になったことを喜び、その様子を嬉々としてこちらに伝えてくる。そんな文章を読むと、こちらまで映画館に足を運びたくなります。完全に彼の思惑通りですね。
あーなんかこんなこと書いていると映画観たくなってきた。とりあえず気になっていた、そしてべた褒めされていた「ガタガ」と「平成ガメラ三部作」は観たい。観たい~
ではでは