後藤を持ちながら

後藤を持ちながら

吹奏楽から仮面ライダーまで

ぼくらは世界でふたりきり ~仮面ライダービルドの終演~

こんにちは、トサカです。

 

最終回を迎え、テレビ本編が終了しましたね。仮面ライダービルド。面白かった~。

次の仮面ライダーである「ジオウ」に登場することも決定しており、Vシネもまだあるので何とも言えませんが、とりあえず彼らの物語に一区切りがつきました。

あぁ~余韻に浸ってます。いい最終回だった。

ぼくは、主人公である桐生戦兎が自分を「ひとりきり」だと思っていることを感じられる部分が何度もありました。ビルドについて語る前に、まずはこの「ひとりきり」とは何かについて話します。

 

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実家にいたころに集めていたマンガの一つに、「魔人探偵脳噛ネウロ」というマンガがあります。

タイトル通り、「魔人探偵」である脳噛ネウロが人間界に降り立ち、大食い女子高生である桂木弥子をはじめとするたくさんの人間と出会いながら「謎を喰う」お話です。のちに同じ作者が書いた「暗殺教室」と同じく、人知を超えた生物と出会った人々が自分を見直すことが話の軸となっているマンガです。ちょー面白いのでお勧め。

 

彼が携わった事件の犯人の一人に、「アヤ・エイジア」という世界的な歌姫がいます。

立て続けに親しいプロデューサー、マネージャーを自殺で亡くした彼女は、彼らの探偵事務所へ向かいます。本当に自殺だったのか、何かの事件に巻き込まれた可能性はないか確かめてほしいと依頼します。

しかし、本当は彼女が二人を殺していました。彼女は「ひとりきり」になるために二人に手をかけたのです。

 

彼女は多くの人の琴線に触れる歌を歌います。その「威力」はすさまじく、心を震わされすぎて倒れる人が出るほどです。しかし、彼女の歌を聴いた桂木弥子の感想は「いい歌」止まりでした。自分と「倒れる人たち」の違いは何だったのか、弥子にはわかりませんでした。

そのことを素直に伝えた弥子は、アヤに自身の歌がどんな人に届くのかを教えてもらいます。「『自分は世界でひとりきり』。そんな人に、私の歌はより響くの。そして、それができるのは私も世界でひとりきりだから」。

彼女の殺人の動機。それは「ひとりきりになるため」。親しくしてくれた二人のせいで自分の世界はこじ開けられ、ひとりきりにはなれなくなってしまった。突き刺さるような歌を歌えなくなった。自身の才能を認めてくれる人との距離が近くなればなるほど、彼女は歌えなくなってしまう。だから殺した。

彼女が探偵事務所を訪ねた理由。それはこれまで隠し通せていた罪を償いたかったからです。服役中の彼女がどう変わっていくのか。それはぜひマンガを読んで、皆さんの目でお確かめください。

 

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仮面ライダービルドに話を戻します。

主人公の桐生戦兎もまた、「自分は世界でひとりきり」と考えている存在だったとぼくは考えます。ただ、同じような考えを持っていても、そこからの行動には大きな違いがあります。アヤは「ひとりきりになるため」に世界を変えようとしていましたが、戦兎は「ひとりきりだから」無茶をする人間でした。

自分が無茶をして危険な目にあってもしょうがない、自分が蒔いた種だから、自分が消滅してでもなんとか問題を解決したい。そういった彼の持つ「ゆがんだ自己犠牲」の根底には、アイデンティティの欠落があるのではないかと考えています。

もともと、彼はこの物語の諸悪の根源である「エボルト」によって作られたヒーローです。様々な兵器を作り出した「葛城巧」の頭脳を、その場に適当に居合わせた「佐藤太郎」の身体に移植して、記憶を消したことで生まれたのが「桐生戦兎」です。彼は絶対悪「エボルト」の野望のためにヒーローとして活動させられ、そして物語の途中で裏切られました。

自分が急場しのぎで作られた都合のいいヒーローである彼にとって、家族は存在しません。葛城巧の両親には会ったものの、純粋な親子関係というものは築けませんでした。また、記憶を消されてしまっているので、「桐生戦兎」として過ごした時間は、およそ二年ほどしかありません。他人の頭と、他人の体を借りて完成した人格である彼にとって本当に「帰る場所」などなかったのでしょう。

 

自分はひとりきりなんだという孤独感に、戦兎はずっとさいなまれていました。そして、「ひとりきり」の自分なら、都合よく作られた自分なら無茶ができる。そういった考えのもと、彼は何度も危険な行為に手を染めていきました。その癖は結局最終回まで止まらず、副ヒロインである美空ちゃんが「まぁ止めるのは無理だろうけど、せめて無事で」と話しかけ、彼を危険地域に送り出しました。

主人公がこんな「自己犠牲サイコパス」だったためか、美空役を演じてた高田夏帆はほんとうに悲痛な顔の演技が上手くなったと思います。戦兎が危険なことをやるたびに、地下の秘密基地で辛そうな顔をして戦兎を止めようとする美空を何度も見せられ、毎度毎度「一回くらい忠告を聞いてやってよ~」と心の中で叫んでいました。でも、彼女の声が真に戦兎に届くことはありませんでした。行動に移してしまうのです。

 

最終決戦によって桐生戦兎がやろうとしたこと。それは「パラレルワールドとの融合により、ラスボスのいない新たな地球を作り出す」という、少しでもSFかじったことのある人が聞いたら卒倒し、「こいつのほうがラスボスでは…?」と疑ってしまうような作戦です。

作戦は成功し、「エボルトがいなかった場合の世界」が作られました。どうやら「全く新しい地球」が生まれたわけではなく、「エボルト『だけ』がいなかった場合のifルートである地球」が生まれたようです。

ただし、エボルトがいなかった場合、もう一人この世界に存在してはならない人間がいました。それが桐生戦兎です。エボルトによって作られたヒーローは、この世界にとっては必要のない存在です。これまでの二年間で知り合うことができた人々を訪ね歩いても、誰も自分のことを覚えていない。本当に彼は「ひとりきり」になってしまったのです。親しい人に会いながら誰にも覚えてもらっていない時の表情には物悲しさが染みついていました。彼が作りたかった地球はこんなにもビターな後味なのか…。誰もがそう考えました。

 

 

そんな主人公を救えるのは誰だと思う?

 

 

 

万丈だ。

 

 

ここでやってきたのがこの作品の正ヒロイン、最終決戦で生死不明となったあと、桐生戦兎と同じくエボルトのいた世界から飛んできてしまった万丈龍我です。エボルトの遺伝子を持った彼もまた、この世界にいてはいけない人物でした。この世界にもともといた万丈と交わらず、互いに自我を持った存在としてこの世界に存在してしまったのです。(彼らが出会う前に、この「万丈」とこの世界にもともといた「万丈」がエンカウントするという、これまたパラレルワールド系をかじったことがある人なら泡吹いて倒れそうなイベントがあったらしいのですが、ギャグっぽく流されます。ビルドらしいっちゃあビルドらしい。)

彼と再開ししょーもない会話をした後の戦兎の顔が本当に良かった。くしゃっとしてるんですよ。この世界に降り立ってから一番うれしそうな顔をするんです。世界を救えたことよりも、自分の作戦が成功して、この世界の人々が無事に生きていることよりも、万丈が生きていて、そしていっしょの世界に来てしまったことのほうが嬉しいなんて…。この顔を見た瞬間、一年間きちんと観てきて、ビルドについてきてよかったと思えました。世界はもちろん、この一年間で彼もちゃんと救われたのです。

結局この世界の真実を知っているのは戦兎と万丈の二人だけ。そして彼らは新しくできた世界に「ふたりきり」で取り残されてしまいました。後味としては某ウェーイ!なライダーと似たメリーバッドエンドですが、最後の最後で「愉快なあらすじ」を録音し始めた彼らを見れば、まぁこの二人ならなんとかやっていけるだろうという根拠のない確信が生まれます。

 

ビルドは「三段跳び」のような作品だったというのがぼくの感想です。

タメて、タメて、タメた先に大きく感情を揺らすものを持ってくる。ちょっと助走は長めだけど、確実に期待していたハードルをやすやすと越えてくる。そんな信頼感を抱きながら一年間観てきました。

終わっちゃうのは寂しいですが、きっとどこかで彼らは生きてるんでしょう。次の王も楽しみにしつつ、しばらく余韻に浸ります。

 

ではでは。