後藤を持ちながら

後藤を持ちながら

吹奏楽から仮面ライダーまで

屍人荘って全然変換できないね

ミステリー、コメディ、ホラーをろくに包丁も入れずに圧力鍋にぶち込み、ぐつぐつと煮えたった「それ」を臆面もなく視聴者にぶつけるクリエイターがいました。

その名を「堤幸彦」。ケイゾクTRICK、SPEC…。どのドラマも(映画も)10分と観れば「あ、これ堤さんっぽいな」と判別できるくらいその匂いは強烈です。今回観た映画はそんな彼から大いに影響を受けたクリエイターから産み落とされた一品。「屍人荘の殺人」です。

 


監督は木村😀ひさし。TRICKにて助監督、演出を務め「警部補 矢部謙三」や「民王」で監督を務めていたそうな。テレ朝の「金曜ナイトドラマ」枠ですね。実家ではテレ朝なんて映らなかったので、新聞のテレビ欄で金曜ロードショーの隣にある金曜ナイトドラマの内容を勝手に妄想して楽しんでました。こーいうやつは実際に観れる環境になると観ないんですよね。怠惰な人間だ。

脚本は蒔田光治。この人もTRICKにてやってたそうな。気心知れた人たちで作られた映画ですね。


主演は子役時代から最盛期を迎え続けている男、神木隆之介。芸歴の長さ、業績のデカさなんて何のその、齢26歳にして「推理小説オタクのヘタレ大学一年生」を熱演しています。ヒロインは「ねじの外れた美少女」をやらせたら天下一品、浜辺美波。脚本の蒔田さんがNHKでやってたドラマ「ピュア!〜1日アイドル所長の事件簿〜」で主演の売れないアイドル黒薔薇純子を演じていたのですが、これが凄まじくかわいい。かわいい!!だけで感想が終わってしまうくらいなーんもない娯楽作ですごく爽快だったので、今回の「屍人荘」にもそれを期待して観に行きましたが、期待以上の可愛さです。主人公の先輩の「自称ホームズ」に中村倫也。あんまりこの人に意識割いて映画を観たことなかったんだけど、かなりよかった。メイクと衣装のせいでカッコ良さはガクッと落ちてたけど笑

 

 

神紅大学の一年生である葉山譲は、今日もミステリー同好会の唯一の先輩である明智恭介に振り回されていた。「神紅のホームズとワトソン」と呼ばれている(実態は明智が呼ばせている)彼らは、今日も街で起こる事件を解決したり、一層事態を深刻にさせて逃げたりしている。

そんな彼らの前に現れた剣崎比留子。彼女は彼らに「ロックフェス研究会」の合宿に来ないかと誘いをかける。部室に届いた脅迫状。去年の合宿で行方知らずになった参加者。そして、山奥に佇む洋館。葉山はそんなミステリアスな要素がどーでもよくなるくらい彼女の可愛さに夢中だった。二人はその案に乗り、合宿が開催される「紫湛荘」へと向かった。

合宿のメインイベントであるフェスが終わり、「紫湛荘」へと辿り着いた一同。宿に困った招かれざる客や洋館のオーナーであるロックフェス研究会OB、彼がナンパしてきた女の子などが各自の部屋へ戻り、一晩を明かす。そして翌朝、ロックフェスの研究会会長が変わり果てた姿で発見される。部屋には「いただきます」「ごちそうさま」の置き手紙。しかし、これは彼らが味わう悲劇的な体験のほんの一部にすぎなかったのだった…。果たして犯人は誰なのか。そして、彼らは無事にこの危機的な状況を抜け出すことできるのか。

 


「洋館」と「密室」。この2フレーズを聞いて心踊らない人はいないのではないでしょうか。ミステリーに関する知識がコナンと「実に面白い」東野圭吾で止まっている俺でさえ、「謎」の予感がする洋館に招待されたらクッッッソニヤニヤしてしまうと思います。探偵ものがすきな彼らにとってならなおさら、不気味な洋館へ招かれるという状況は垂涎ものでしょう。

しかし、ミステリーマニアたちと「洋館」との出会いはやけにあっさりしています。「これから起こる惨劇」を予想させてくれるような寂れ方も、「何かが息を殺して潜んでいる」ようなものものしさもありません。ただ、坂を登ったら見えてくるだけ。

ポスターのポップなフォントからは程遠い、細くて赤い簡素な字体で現れたタイトルコール「屍人荘の殺人」とともに、「紫湛荘」は彼らを無愛想に迎え入れます。


この映画、冒頭部に限らずミステリーをやる上で重要な「嫌な空気」がありません。洋館内のセットも古風な武器やそれっぽい部屋があるだけで、なぜか不気味さを全く感じませんでした。なんでだろうな。画面の彩度が高いから?わからん。まぁこれは全部観終わり、製作者たちが「何をしたかったか」を考えれば割と悪くないプランだとは思いますが、期待外れでちょっとがっかり。堤さんの「近寄ってはいけない」匂いがこちらにもぶんぶん伝わってくる画作りを見てると、物足りなさを感じます。

 


じゃどこがよかったかというと、くすりと笑わせるようなところ。俳優さんたちが伸び伸びと変な人を真面目に演じていてこっちまで笑顔になります。

特に「Wヒロイン」神木隆之介浜辺美波の掛け合いは最高。少し舌足らずな浜辺さんがとぼけたことを言うだけでもう面白い。彼女は橋本環奈と同じようにコメディエンヌの才覚があるはず。そんな彼女にみっともない恋心(下心)を爆発させる神木くんも最高。そして名前が「明智」なのにホームズを自称する中村倫也も、クドイ性格を爆発させてて良い。「サラリーマンNEO」でお馴染みの池田鉄洋さんのヅラネタは、心が小学二年生の私のツボにどハマりしました。本来なら上司の生瀬さんの役割なのにね笑。

あと、浜辺美波の衣装がかーわゆい。他の人たちがいかにも「ザ・大学生」な無個性パーカー着てたりフェスということで動きやすい格好できている中、ダークレッドのワンピースに白地、黒リボンのハット、やたらと角ばった皮のバッグと一人だけ大正時代からやってきたような格好でこの館にやってきます。こんな時代錯誤な格好をお笑い草にせず、彼女はビシッと着こなします。似合う。可愛い。驚きの可愛さを発揮します。

 


キャラの魅力だけでいえばかなりいい線いってます。がしかし、切迫感やシリアスさがうまく出しきれなかったのはうーんというところ。オチもひどい笑。でも、予告編のあのポップさが気に入った方はこの映画は結構ノレるはずです。軽ーい気持ちで観にいけば楽しめるし、ミステリーとしてもトリックがしっかりしていて面白いのでお得感マシマシです。ミステリーではありますが、全年齢対象であるためグロいシーンはありません。誰かと一緒に観に行っても大丈夫でしょう。Wヒロインの可愛さにワーキャー言いあってみてはいかがでしょうか。

 

 

 

最後に、この映画を観てみようかと思ってくださった方へ。


この映画にはある「謎」が仕掛けられています。その謎の片鱗は、予告編で「小さな違和感」として既に登場しています。

その違和感と、あなたがこの物語について知っていること、ここで提示された情報を組み合わせると、答えに辿り着けるかもしれません。

 


映画『屍人荘の殺人』予告2【2019年12月13日(金)公開】

 

目の前で起こった出来事によって未来に何が起きるのか?

君にもわかるはずだ。 『明智恭介』

 

気が向いたらネタバレ全開のやつも書きます。

【『奇』行文】ネモフィラを観に行きました

こんにちは、トサカです。

 

GWも終盤、長期休暇明けにあるテストに向けた勉強を行っていると、ぼくのイマジナリーフレンドが「おい、ネモフィラって花が見ごろらしいから行ってみようぜ!」とうるさくわめきだしました。
確かに、ここ数日おしゃれな人がこぞって群が…集まって写真を撮っているのが「ネモフィラ」という花がたくさん生えている場所です。

ぼくは、ここ数日のtwitterで初めてネモフィラという植物を知りました。多くの人を引き付けるネモフィラ。いったいどんな植物なのかを、まずは調べてみました。

 

ネモフィラについて

 

まず、ネモフィラが日本に輸入されてきたのは前回の東京オリンピックがあった年、つまり1964年です。
その香りの芳醇さと美しい紫色が人々を魅了し、瞬く間に人気の花として、全国各地に植えられることとなりました。

 

しかし、70年代に突然変異が起きます。五月終盤になると、成長速度がうんと増すようになったのです。一日に茎が二倍の長さに、根が三倍の長さに成長し、当時の草原や道端、はてはビジネス街のビルの地面からネモフィラが顔を出すようになりました。日本で一番最初に突然変異が起こった大阪では町中がパニックに陥り、機能不全を起こしかけていました。
事態を重く見た政府は特別委員会を設置。全国各地に散らばったネモフィラを回収し、保存用のものを除き焼却処分を行うよう命じます。

 

研究の結果、ネモフィラは人間が発する「仕事への嫌悪感」を敏感に察知し、それを養分にして生長を行っていたそうです。70年代は今ほどまとまった連休ではなかったものの、やはり休みが多くなればなるほどそこから復帰するのも至難の業。仕事へのめんどくささが、いつもよりも大きく育ってしまうのがこの時期だったそうです。この気持ちをネモフィラが吸い取り、5月終盤にメキメキと成長してしまったことで、大阪の悲劇が起きた。というのが事の顛末だそうです。関西圏に長く住んでいたのに、こういった過去の事件を知らぬままのほほんと暮らしてしまっているのは良くないですね。

こうして、野生のネモフィラを除去しつくすのに10年、そしてネモフィラを比較的安全に育成するための研究に20年という年月をかけ、ついに完成したのがネモフィラドーム大阪です。

 

ネモフィラドーム大阪について

 

というわけで、ぼくはネモフィラを見るために「ネモフィラドーム大阪」に行ってきました。
ネモフィラドーム大阪は、ネモフィラを安全に鑑賞できることで世界にその名を轟かせた施設です。

 

まず自分がドームの入り口まで来て驚いたのが、その物々しさです。
見張りの警備員の方々の声色は優しく、ぼくらを入り口からどこへ向かえばいいかを案内してくれます。しかし、その目つきはやけに鋭く、怪しいものを観光客が所持していないか常に目を光らせています。また、その腰にはいかつい警棒を携えており、こちらの意見に従わない場合は武力行使もいとわないといった姿勢をうかがわせながら、あちこちを巡回しています。「二度とネモフィラショックを大阪では起こさない」という強い意志を、そこかしこで感じます。

 

受付では、貴重品を全て没収されます。「仕事」を想起させるものはNGということだそうです。ただし、ドームにお金を落としてほしいという経営者の声は無視できなかったのか、財布の中にある現金のみは、専用のジップロックに入れて入場することができます。かわいい女の子の集団や、おしゃれな格好をしたカップルのポケットから無様に飛び出しているジップロックは、なかなか味わいがありました。
また、オプションで使い捨てカメラを買うこともできます。SNSに挙がっている写真の多くは、「写ルンです」で撮った写真を再びケータイで撮影したものなのでしょう。インスタ映えって難しい。ちなみに、FUJIFILMの社員は入場不可だそうです。可哀そうに。

 

受付が終わると、番号が渡され、ぼくは待合室に行きました。注射の順番を来るのを待つのです。

『仕事への嫌悪感によって爆発的に成長するネモフィラ。科学の力をもってしても、この恐ろしい植物を完全にコントロールすることはいまだ不可能です。かつての種より成長速度は遅くなったものの爆発的な成長力は健在で、今のまま育ってしまったらおそらく7月を待たずしてドームがネモフィラでぱんぱんになってしまうでしょう。
そこで、ネモフィラドーム大阪では、ネモフィラではなく客であるあなたたちをとある状態に持っていくことに尽力するようになりました。

「仕事」に関する記憶を全て忘れさせるのです。

注射を打つだけで、仕事に関することを一切考えられなくなります。どういう効果によってこれが引き起こされているのかはさっぱりわからないのですが、とにかく仕事のことを一切考えられなくなります。効果は一時間ほどで切れます。大丈夫です。安全です。副作用はありません…。』

という話を待合室のビデオで観ました。ちょっと怖かったけど、おしゃれでナウい若者は皆やっているので、まぁ大丈夫でしょう。
さて番号が呼ばれたので注射室へ。腕をまくるとスタッフの方が首を横に振りました。

「手の甲に打つ。さっさと見せて。」

いちおう23歳のいい大人なので、歯をくいしばって耐えました。ちょっと声がもれました。後に並んでいた少年がぼくの声を聴いて泣き出したようです。楽しいレジャーの時間を…ごめんね。

 

お昼前、みんながご飯を食べに行くような時間を狙ったのですが、それでもかなり人は多かったです。高校生の集団やサークルの仲がいいグループ、ふたりの子供を連れた親子など、たくさんの人々が危険を顧みずネモフィラを見に来ていました。

 

注射も済んだところで、いよいよネモフィラとのご対面です。厳重に警戒されたゲートを抜けると、まず花特有のいい香りが鼻いっぱいに広がります。そして、眼前にはありとあらゆる場所から紫色の綺麗な花が、こちらに顔をのぞかせていました。おぉ~これがネモフィラ…。

ふと気がつくと、40分くらいずっと入り口近くの茂みに見とれていたことに気づきました。なんだか頭がぼうっとしていました。

ちなみに後で知ったのですが、これは結構危ない兆候だったらしく、人が「仕事への嫌悪感」をネモフィラから吸われている時、酸欠になってしまったような感覚に陥ってしまうそうです。怖い怖い。

流石にずっと立ちっぱなしでいるのはきつかったので、近くのベンチに腰掛け、自販機で買ったコーラを飲みながら残りの時間を過ごしました。
花が咲いているドーム内に職員はいません。彼らが万一仕事へのストレスを感じ、それを慢性的にネモフィラに与えてしまった場合、花は爆発的に成長し、ドームを破壊するまでに育ってしまうでしょう。そういった事態が起こらないよう、職員は花と可能な限り接触しないことが徹底されています。

 

さて、そろそろ時間が来たのでネモフィラともお別れです。

ドームを出ると無菌室に通され、強い風を浴びせられます。花粉を徹底的に落とすためだそうです。ちょっと消毒液チックな匂いがしました。
その後、相変わらず目の笑っていない警備員についていき、自分の荷物を返してもらって、ネモフィラ観賞は終了です。美しさと非日常性が上手く交わってすごく楽しかったです。

綺麗に咲き誇っていたネモフィラも、五月の終盤には根も残らないよう丁寧に焼き尽くされます。焼いた後にできた土は栄養分がかなりあるらしいので、それを売って来年度の予算に回すそうです。たくましい。

 

もしこの記事を見てネモフィラに興味が湧いたという方は、ぜひ来年行ってみてください。

 

ではでは。

か~もんべいべ~アメリカ! 吹奏楽に合うのか?

こんにちは、トサカです。

 

国民みんなが歌えるような曲が少なくなった現代。そんな音楽業界の中で、今年のメガヒットソングを決めろと言われたら間違いなく多くの人がこの曲を推すでしょう。

www.youtube.com

か~もんべいべ~ アメリカ!でおなじみ、DA PUMPの「U.S.A」です。暇を持て余したちびっこくんが、この曲のサビを歌い叫びながら元気よく踊っている姿をショッピングモールの休憩所なんかでよく見かけます。

そのダサ…先鋭的な衣装やPVに度肝を抜かれて、何回も聴いているうちにいつの間にかはまってしまう。そんなループに落ちてしまった人が少なくないようです(ぼくもその一人)。

ちなみに、こんなに「先鋭的」な格好をしているのにはちゃんとした理由があります。詳しくはこのブログに書かれてあるので読んでみてください。

 

www.jigowatt121.com

さて、ぼくは吹奏楽で打楽器を演奏しています。当然、こういった「多くの人に耳なじみのある曲」もたくさん吹奏楽で演奏してきました。

昔のぼくも含め、わりと大学まで吹奏楽を続けてきた人たちはこういった「編曲ポップス」を避けたいと考えているように見えます。吹奏楽の良さを存分に生かした岩井直溥真島俊夫の書いたポップスをしたいという態度もまあわからんことはないです。

がしかし、やっぱり客席で「耳なじみのある曲」が流れると周りの空気が変わります。クラシックばかりで少しだれ気味だった会場に大河ドラマのOPが流れだした途端、みんな前かがみになって聴きだした演奏会のことを思い出します。やっぱり「知ってる曲」というのはそれだけで充分求心力があります。観客のことを考えるのなら、そこを無下に否定はできないと思うのです。

 

そういった「耳なじみのある曲」のなかでも「吹奏楽で仕上げやすい曲」と「そうでない曲」があります。先程述べた大河ドラマは言わずもがな、バンドサウンドを主体にした明るめのJ-POPなんかはかなり吹奏楽になじませやすいものだと思います。この辺りは編成を柔軟に対応できる吹奏楽の強みですね。

 

では、今回話題にしている「U.S.A」はどうか。

これは最悪レベルの噛み合わなさです。ぜっっったい吹奏楽に合わないのです。電子音楽吹奏楽は水と油。全くかみ合わないのです。

 

この曲に限らない話ですが、テクノポップの神髄は「音の物量」です。

この曲ではギターやシンセ、人力では難しいであろう音数のドラムがそこかしこで聴こえてきます。電子音が多すぎて、一回聴いただけではその音の物量に押し流されてしまうでしょう。その物量の多さによって高揚感が生まれます。そして、そのこまごまとした音がたくさん聴こえてくるほど、人は「そうではない音」、つまりISSAの歌声に耳を傾けます。そのド直球なメロディーに、人々はぐっと心をつかまれます。

 

(わき道)

そもそもテクノポップを「ガッツリ歌もの」として売り出す人たちってそんなにいないと思うんですよね。変な髪型をした三人組のお兄さんYMOをはじめとして、電気グルーヴPOLYSICS中田ヤスタカプロデュースのPerfumeきゃりーぱみゅぱみゅ岡崎体育など、ちょっとかわったアプローチの人が多い印象です。

小室哲哉はここを上手く両立してますね。テクノとしてかっこいい打ち込みと、わかりやすく癖のない音楽がそこにあるように思えます。なんで引退したんじゃ…。

(わき道終わり)

 

さて、このこまごました音を吹奏楽で再現するとどうなるか。

この曲の良さを完全に殺してしまうのです。

電子音だからこそ無機質に鳴らすことができるのです。あの音楽をそのまま人力でやろうとすると、かなり力んでしまいます。こまごまとした電子音が「吹くべき連符」になってしまったとき、そこにはどうしても「必死さ」が生まれてしまい、この曲の持つ均等な高揚感や無機質さが死んでしまうのです。

特に冒頭の「C'-C'-C'-C'-C'-C'-C'-C'mon, baby 」というところ。あれを吹奏楽でやるとただのタンギングの基礎練になってしまいます。あそこは電子音の「ブツ切り」という魅力があってはじめて成り立つ箇所なのです。

 

では、この曲は演奏してはいけないポップスなのか。そうではありません。

www.youtube.com

 

この譜面はかなりいいです。

吹奏楽が苦手とする打ち込みというジャンルから、がっつりロック調の曲に変貌しているのです。一番のサビには原曲で特徴的だったこまごまとした音なんてほぼなく、ガッツリバンド全体でコードを吹きまくっています。ドラムの16ビートも合わさって「やたらと勇ましいブラスロック」にその姿を変えています。曲終わりにはもはや原曲が迷子になってしまっているほどの勇敢さがあり、大胆な編曲にゲラゲラ笑いながらそのカッコよさに思わず手を握り締める自分がいました。

 

こういったアレンジを聴くと、まだまだ編曲ポップスも捨てたもんじゃないなと思います。

というわけで、ロケットミュージックから発売の「U.S.A」。演奏会のアンコールなんかにいかがですか?

www.gakufu.co.jp

ではでは。

ダメと言われたい

こんにちは、トサカです。

 

昨日は友達と遊びに淀屋橋に行きました。カラオケです。最後はガラガラ喉になってしまったので、むりくり激しい曲を歌いまくっていました。楽しかったです。

 

さて、淀屋橋と言えば大阪有数のオフィス街です。住友銀行日本生命などの名だたる企業のおっきなビルが立ち並びます。多くのビジネスパーソンで平日はあふれかえるらしいのですが、日曜の午後の淀屋橋は呑気に散策できる街でした。西洋風のレンガ造りの建物も多く、歩いて楽しかったです。

が、さすがオフィス街。そこはかとなくぴりっとした緊張感がありました。

 

一番その緊張感を感じたのは、地下鉄淀屋橋駅の近くにある本屋に足を運んだ時です。

エスカレーターを登った先に本屋がどんと構えてあり、自然と店先が目に飛び込んできます。そのエリアには、ここで売れている書籍がずらりと並んでいます。

 

この構造自体はよくあるものなのですが、そこに並んである本がなかなか「圧」が強いのです。すごい企業の法則とは。できる営業になるためには。残業をしない働き方をするためには。これをしなさい。あれをするな。あれはダメこれはいい…。とにかく、ビジネス系の、それも結構断定口調のタイトルの本が目立つところに置かれているのです。

「本屋のレイアウトには世の中のトレンドが眠っている」という言葉があります。まぁここで言うトレンドはあくまでも「本を買う層」のものなので100%真実というわけではありませんが、それでもその街の個性であったりその本屋の信条が見えたりするので、本棚のレイアウト方法を書店ごとに見比べるのは結構おもしろいです。

淀屋橋の、それも駅からかなり近い本屋にわざわざ家族で来るような人はなかなかいないでしょう。客層を考えればビジネス系の本がたくさん並んでいるのも納得です。しかし、その本棚を見たときぼくは少しビビってしまいました。

 

ぼくは本を買うとき、自分の中で「何か変わるかもしれない」という気持ちを抱きながら買います。これまでの自分にはなかった人生の楽しみ方や問題の解決策、あるいはもっとクリティカルに心にヒットする「何か」を期待します。

これは本に限らずあらゆるものに対してぼくが期待していることですが、特に文章ならばその「何か」に至るまでの描写が丁寧になされているので、その「何か」を見つけやすいのです。

とは言ったものの、別に「変えよう!!!自己変革サイコー!!」という意識は持ってません。ぴぴっときた本を手に取って、面白そうなら買う。んで「なんか変わるかもな~」なんて淡い期待を抱く。これくらいの心持ちです。おそらく一冊の本で人生観ががらりと変わること自体「まれ」ですし、一冊の本でがらりと変わってしまうほど自分はやわじゃないと信じています。信じたいなぁ。

 

そういった「ほどほどの期待」を抱いているぼくにとって、なかなかあの本屋は居心地が悪かったです。なぜなら、あそこに並べられていた本は「お前はダメだ」という趣旨のタイトルの本が多かったからです。

自分に、もしくは自分の環境に不安や不満がある。しかし、それをどのように打開すればいいかわからないという人たちのための本がものすごく多いのです。あの企業に習おう。こういったスキルを身に付けよう。こんなことはしちゃダメ。これこれをしなさい。それらの本のタイトルを見ていると、「ダメ」と言われたい人々と「ダメ」と言いたい人々の需給が釣り合っていることを感じます。

自分の中に明確な、しかもマイナスな思考である「このままではダメだと言われたい」という欲求があって、その欲求を満たすために本を読むという行為は、お気楽な自分にとっては結構驚きです。(だって読書って娯楽として楽しみたいやん…。)

ただ、自身の弱いところの解決策を、少なくとも本を書ける程度には体系化してある先人に頼るという手段は間違いなく有用です。淀屋橋にはそれをきちんとできる人が多いことがわかります。かっこいいなぁ。あと十年くらいしたら、ぼくもそういうことができるようになっていたいですね。

 

 

ではでは

アジの缶詰と新しい世界

こんにちは、トサカです。

 

アジカン。味の缶詰ことアジアンカンフージェネレーションというバンドが好きです。ボーカルのゴッチこと後藤正文と、初見では絶対に顔を見分けられないギタリスト、ベーシスト、ドラマーの四人で構成されています。

味の缶詰という名前の通り、さっぱりとしたサウンドが特徴です。ゴッチのごてっとした歌い方や、伊地知さんのなかなかに変態じみたドラムさばきなど、こってりしそうな要素はたくさんあるのに、この四人で音を作ろうとするとなぜか淡泊でクセのないサウンドとなります。この辺の上手さはサウンドをまとめ上げる人の手腕なのでしょう。非常に好みです。

 

アルバムとしては「マジックディスク」が好きです。初日当初はわりとファンの人からも疑問におもわれてしまっていた内容なのですが、自分は結構好き。淡泊と疾走感が全てだと思っていたアジカンが真剣におもちゃで遊んでみたようなCDです。このアルバムを経てアジカンの曲がよりカラフルになったように思えます。

このアルバムを発表したあたり(ちょうど新世紀のラブソングを出した頃かな?)に、ゴッチが「情報をなるべく多く乗せるためにラップのようなアプローチを仕掛けていきたい」と語っていました。当時は新世紀のラブソングの斬新なアプローチを前に「すげぇ!」と感心していましたが、今の彼らのストレートにメロディを歌い上げる路線の方が似合ってると思います。でも、新しい曲にこの時期の遊びの影響が各所に見出だすことができて楽しいです。(そして、新世紀のラブソングは名曲であることに変わりはありません)

 

一番好きな曲は「新しい世界」です。

ぱりっぱりの音が鳴るギター、ぶいぶい言わせるベース、火花のように激しく燃えるドラムの16ビートがこの曲を加速させていきます。イントロからもう最高。

歌詞のテーマとしては割とよくある「型にはまるのではない。自分の道を往け」というものなのですが、テーマへの迫り方が本当に大好きです。ゴッチは自分の住む世界である音楽の枠組みの中で、このテーマに至ります。

大声で叫べばロックンロールなんだろ?

そんなクソみたいな話はもうたくさんだよ

それがなんなのかなんてどうだっていいから

目の前の景色を全部 塗り替えるのさ

という風に、ロックンローラーなら一度は考える「ロックの定義」についてAメロで考えさせます。しかし、あっさりが持ち味のアジカン、Aメロ内でさっさと解決し、次のステップへ進みます。

 

退屈な夜はAのコードを

三角形でかきむしれば

指先 開放二弦の刹那と

想像力で 世界が変わる

ぼくはこの曲でここが一番好きです。

ギターを弾いていることが最初の方で分かります。そして、ピックのことを「三角形」というほどにしか捉えられないほど、弦を弾く感覚が研ぎ澄まされていくゴッチの「集中」を、イヤホン越しに追体験することができます。

自分にとって手垢にまみれているはずの武器(ギターやピック)をぼんやりとしか認識できなくなるほど没入し、その感触をじかに感じたとき、そしてそこに想像力をうまく乗せられた時、世界を変えられる。

ここを初めて聴いた時はぶっ飛びました。シンプルだけど難しい。難しいけれど、ばっちり目が覚める。そんな曲です。

 

というわけで、皆さんも鯵の缶詰、ぜひ食べてみてください。

 

ボーイズ&ガールズ

ボーイズ&ガールズ

  • provided courtesy of iTunes

 

 

ではでは。