後藤を持ちながら

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吹奏楽から仮面ライダーまで

【『奇』行文】ネモフィラを観に行きました

こんにちは、トサカです。

 

GWも終盤、長期休暇明けにあるテストに向けた勉強を行っていると、ぼくのイマジナリーフレンドが「おい、ネモフィラって花が見ごろらしいから行ってみようぜ!」とうるさくわめきだしました。
確かに、ここ数日おしゃれな人がこぞって群が…集まって写真を撮っているのが「ネモフィラ」という花がたくさん生えている場所です。

ぼくは、ここ数日のtwitterで初めてネモフィラという植物を知りました。多くの人を引き付けるネモフィラ。いったいどんな植物なのかを、まずは調べてみました。

 

ネモフィラについて

 

まず、ネモフィラが日本に輸入されてきたのは前回の東京オリンピックがあった年、つまり1964年です。
その香りの芳醇さと美しい紫色が人々を魅了し、瞬く間に人気の花として、全国各地に植えられることとなりました。

 

しかし、70年代に突然変異が起きます。五月終盤になると、成長速度がうんと増すようになったのです。一日に茎が二倍の長さに、根が三倍の長さに成長し、当時の草原や道端、はてはビジネス街のビルの地面からネモフィラが顔を出すようになりました。日本で一番最初に突然変異が起こった大阪では町中がパニックに陥り、機能不全を起こしかけていました。
事態を重く見た政府は特別委員会を設置。全国各地に散らばったネモフィラを回収し、保存用のものを除き焼却処分を行うよう命じます。

 

研究の結果、ネモフィラは人間が発する「仕事への嫌悪感」を敏感に察知し、それを養分にして生長を行っていたそうです。70年代は今ほどまとまった連休ではなかったものの、やはり休みが多くなればなるほどそこから復帰するのも至難の業。仕事へのめんどくささが、いつもよりも大きく育ってしまうのがこの時期だったそうです。この気持ちをネモフィラが吸い取り、5月終盤にメキメキと成長してしまったことで、大阪の悲劇が起きた。というのが事の顛末だそうです。関西圏に長く住んでいたのに、こういった過去の事件を知らぬままのほほんと暮らしてしまっているのは良くないですね。

こうして、野生のネモフィラを除去しつくすのに10年、そしてネモフィラを比較的安全に育成するための研究に20年という年月をかけ、ついに完成したのがネモフィラドーム大阪です。

 

ネモフィラドーム大阪について

 

というわけで、ぼくはネモフィラを見るために「ネモフィラドーム大阪」に行ってきました。
ネモフィラドーム大阪は、ネモフィラを安全に鑑賞できることで世界にその名を轟かせた施設です。

 

まず自分がドームの入り口まで来て驚いたのが、その物々しさです。
見張りの警備員の方々の声色は優しく、ぼくらを入り口からどこへ向かえばいいかを案内してくれます。しかし、その目つきはやけに鋭く、怪しいものを観光客が所持していないか常に目を光らせています。また、その腰にはいかつい警棒を携えており、こちらの意見に従わない場合は武力行使もいとわないといった姿勢をうかがわせながら、あちこちを巡回しています。「二度とネモフィラショックを大阪では起こさない」という強い意志を、そこかしこで感じます。

 

受付では、貴重品を全て没収されます。「仕事」を想起させるものはNGということだそうです。ただし、ドームにお金を落としてほしいという経営者の声は無視できなかったのか、財布の中にある現金のみは、専用のジップロックに入れて入場することができます。かわいい女の子の集団や、おしゃれな格好をしたカップルのポケットから無様に飛び出しているジップロックは、なかなか味わいがありました。
また、オプションで使い捨てカメラを買うこともできます。SNSに挙がっている写真の多くは、「写ルンです」で撮った写真を再びケータイで撮影したものなのでしょう。インスタ映えって難しい。ちなみに、FUJIFILMの社員は入場不可だそうです。可哀そうに。

 

受付が終わると、番号が渡され、ぼくは待合室に行きました。注射の順番を来るのを待つのです。

『仕事への嫌悪感によって爆発的に成長するネモフィラ。科学の力をもってしても、この恐ろしい植物を完全にコントロールすることはいまだ不可能です。かつての種より成長速度は遅くなったものの爆発的な成長力は健在で、今のまま育ってしまったらおそらく7月を待たずしてドームがネモフィラでぱんぱんになってしまうでしょう。
そこで、ネモフィラドーム大阪では、ネモフィラではなく客であるあなたたちをとある状態に持っていくことに尽力するようになりました。

「仕事」に関する記憶を全て忘れさせるのです。

注射を打つだけで、仕事に関することを一切考えられなくなります。どういう効果によってこれが引き起こされているのかはさっぱりわからないのですが、とにかく仕事のことを一切考えられなくなります。効果は一時間ほどで切れます。大丈夫です。安全です。副作用はありません…。』

という話を待合室のビデオで観ました。ちょっと怖かったけど、おしゃれでナウい若者は皆やっているので、まぁ大丈夫でしょう。
さて番号が呼ばれたので注射室へ。腕をまくるとスタッフの方が首を横に振りました。

「手の甲に打つ。さっさと見せて。」

いちおう23歳のいい大人なので、歯をくいしばって耐えました。ちょっと声がもれました。後に並んでいた少年がぼくの声を聴いて泣き出したようです。楽しいレジャーの時間を…ごめんね。

 

お昼前、みんながご飯を食べに行くような時間を狙ったのですが、それでもかなり人は多かったです。高校生の集団やサークルの仲がいいグループ、ふたりの子供を連れた親子など、たくさんの人々が危険を顧みずネモフィラを見に来ていました。

 

注射も済んだところで、いよいよネモフィラとのご対面です。厳重に警戒されたゲートを抜けると、まず花特有のいい香りが鼻いっぱいに広がります。そして、眼前にはありとあらゆる場所から紫色の綺麗な花が、こちらに顔をのぞかせていました。おぉ~これがネモフィラ…。

ふと気がつくと、40分くらいずっと入り口近くの茂みに見とれていたことに気づきました。なんだか頭がぼうっとしていました。

ちなみに後で知ったのですが、これは結構危ない兆候だったらしく、人が「仕事への嫌悪感」をネモフィラから吸われている時、酸欠になってしまったような感覚に陥ってしまうそうです。怖い怖い。

流石にずっと立ちっぱなしでいるのはきつかったので、近くのベンチに腰掛け、自販機で買ったコーラを飲みながら残りの時間を過ごしました。
花が咲いているドーム内に職員はいません。彼らが万一仕事へのストレスを感じ、それを慢性的にネモフィラに与えてしまった場合、花は爆発的に成長し、ドームを破壊するまでに育ってしまうでしょう。そういった事態が起こらないよう、職員は花と可能な限り接触しないことが徹底されています。

 

さて、そろそろ時間が来たのでネモフィラともお別れです。

ドームを出ると無菌室に通され、強い風を浴びせられます。花粉を徹底的に落とすためだそうです。ちょっと消毒液チックな匂いがしました。
その後、相変わらず目の笑っていない警備員についていき、自分の荷物を返してもらって、ネモフィラ観賞は終了です。美しさと非日常性が上手く交わってすごく楽しかったです。

綺麗に咲き誇っていたネモフィラも、五月の終盤には根も残らないよう丁寧に焼き尽くされます。焼いた後にできた土は栄養分がかなりあるらしいので、それを売って来年度の予算に回すそうです。たくましい。

 

もしこの記事を見てネモフィラに興味が湧いたという方は、ぜひ来年行ってみてください。

 

ではでは。