後藤を持ちながら

後藤を持ちながら

吹奏楽から仮面ライダーまで

GATTACA ~invalid~

こんにちは、トサカです。

平成最後の夏です。皆さんいかがお過ごしでしょうか。

ぼくは、何か「平成」らしいことをしようと思い立ち、平成ガメラ三部作を借りてきました。方々で名作といわれていたもののこれまで見る機会に恵まれていなかったため、ここで見てしまおうという魂胆でした。

ガメラはとりあえず2のレギオン襲来まで観ました。魅せたい「画」がこれでもかと挟まってくるのでかなりエンジョイできました。

が!ひとまずそれは置いておいて、今日はもう一本の映画について話そうと思います。

 

ガタカです。

ガタカ (字幕版)
 

 

今日の目標は、この記事を読んでくださった人の「今後観たい映画リスト」のなるべく上位にこの映画「ガタカ」を入れることです。

少し長くなると思いますが、お付き合いのほどをよろしくお願いします。

 

 

  • あらすじ

そう遠くない未来の話。

遺伝子を操作することで産まれてくる子供を選別することが当たり前になり、世界に新たな差別階層が出来上がりました。遺伝子操作によって生まれた人間と、そうでない人間です。身体のあらゆる箇所から採取できるDNAを読み取り、その人がどれほど優れて/劣っているかが即座に分かるようになったことで、「適正者」はより恵まれた環境に、「不適正者」はそうではない環境に「自然と」収まるようになります。

 

主人公のヴィンセントは、両親が性行為をしたために産まれた「不適正者」です。

産まれた瞬間にDNAを採取され、あらゆる疫病にかかるリスクを計算された彼は、心臓に患いがあるために長く生きられないと生後数分で判断されます。

その事実に落胆した両親は、腫物を触るかの如くヴィンセントを育てる一方で、「普通の」子作り、つまり遺伝子操作によって第二子を産みます。疫病のリスクが少なく、性別も自由に選ぶことができる中で生まれた弟、アントンは兄を追い越すように成長していき、あっという間に体力も体格もヴィンセントを越していきました。

 

「不適正者」であるヴィンセントには夢があります。「宇宙飛行士」になることです。

しかし現実は厳しく、あらゆるDNAチェックによって個人は管理されているため、心臓に患いがある不適正者は宇宙飛行士になることはおろか、人を宇宙へ送り出すための施設である「ガタカ」に一般社員としてすら入社できませんでした。

彼はあの偉大なる宇宙へ行くことを夢見ながら、掃除業者の一員としてガタカを綺麗にするのが精一杯でした。

 

そんな彼は、夢のために行動を起こします。

とびっきりのDNAを手に入れることができる、という噂を頼りにある男を尋ねに行きました。その男は、ある一人の車いすの男性をヴィンセントに紹介します。ジェロームです。

遺伝子操作によって優秀なDNAを持ち、水泳の世界大会で二位という成績を収めながらも、事故にあったために下半身不随の生活を送っていたジェローム。彼は金と自身の生活環境の見返りに、自身のDNA(例えば体液や髪の毛)をヴィンセントに渡し、「自分」を演じるように勧めます。

 

彼の援助と、自身の努力の末、彼はタイタン探査団の宇宙飛行士として選出されるという快挙を成し遂げます。打ち上げまであと一週間となったその時、ガタカ内で彼の上司が撲殺されます。果たして彼は警察の捜査の目をかいくぐり、宇宙へ行くことができるのでしょうか…?

 

  • よかったところ(ネタバレ無し)

この話は、一見すると近未来の管理社会を描いたディストピアSFのように見えますし、それを嫌でも実感するシーンもたくさんあります。

この物語の下地となる設定はずばりDNA。タイトルの「GATTTACA」もDNAの構成要素であるAdenine,Guanine,Thymine,Cytosineの四つの頭文字を並べてできています。

DNAだけであらゆる情報がわかってしまう世界。当然ながら、あらゆる場所でDNAチェックが行われます。会社の入り口、検問、取り調べ、とにかくDNAを採取するシーンが多く映ります。そして、それを待つ人々の映し方が「ザ・管理社会カメラワーク」でした。自分が自分であることを証明するためにずらりと並んだ人々を見ると、どことなく不気味な印象を受けました。

また、遺伝子による差別描写も苦虫を噛み潰したような気持ちにさせられます。不適正者が直接的に暴行などの不利益を与えられているようなシーンもありましたが、なんといっても「入社テスト」のシーンに「遺伝子によって差別が行われている世界」のひずみが濃縮されており、非常に不快感を覚えました。

 

でも、この話の着目すべき点はそこにはありません。語りたいテーマが先にあって、最大限にそれを伝えるためにこの作品は近未来の管理社会を描いただけなのです。

ではこの作品のテーマとは何か。それはここでは言いません。

この映画は、他の多くの映画がそうであるように、主人公の持つエネルギーに周りの人間が感化され、自分の中の何かが変わっていく、変わってしまうところを描いた映画であります。はたして周りの人間がどう変わっていくのか、そして物語の結末はそれとどう結びついていくのか、この映画はその結末への道筋があまりにも、あまりにも美しかったのです。

終盤になり、ヴィンセントは「ある人物」と出会います。その人と彼が話をし、互いの感情をぶつけることで、観客は「ヴィンセントが主人公たる理由」がくっきりとわかります。それがこの映画「ガタカ」の語りたかったテーマでもあります。

テーマが観客に再提示されたところで、話がエンドロールへと収束していきます。その「テーマ」を観客たちがしっかりと踏まえたうえでラストシーンまでの物語の展開を観たときに、ぼくは主人公とその周辺の人たちに対する形容しがたい感情をどうすることもできず、ただベッドの上で一人嗚咽を漏らしていました。

この映画は、ぜひまっさらな状態で観てほしいというのがぼくの願いです。映画を観るうえであらすじや見所を先に知ってしまうのは仕方ないとしても、一番の肝であるこの最後の「テーマの再提示」だけはぜひネタバレを踏まず、その目で見届けてほしいと考えています。なので、ここではあえてテーマとは何かについては語りません。

 

では、終盤までは見所のない映画なのか。そんなことはありません。最後まで観客は「ヴィンセントが不適正者だと社会にばれないか」という緊張感を、主人公とともに味わうことができる映画にもなっています。

この作品は、先程も述べたようにDNAが根幹に関わってきます。不適正者の彼が管理社会をだますには、相応のリスクと覚悟が必要です。彼は「自身のDNA」を世界から抹消するためにあらゆる負担を背負います。例えば、毎朝自身の垢を一生懸命に落とし、シャワールームのバーナーで自分のDNAを抹消したり、コンピュータのキーボード周りについた垢を掃除し、代わりにジェロームの手垢を誰にも見えないように振りまいたりしています。ヴィンセントは何とかジェロームとなるべく、「彼が生きた証」をそこかしこに残していきます。

そこまで念入りにしていても、追及の目はごまかせません。例えば、目をこすったすきに何気なく吹き飛んだまつげ一本が、ガタカに不適正者が潜んでいる決定的な証拠になりえてしまうほど検査は精密です。彼が起こす挙動のすべてが、彼の化けの皮を剥ぐ危険要素となりうるのです。そのスリルに、観客は最後まで耐えなければなりません。ちなみに、ぼくは途中で緊張感に耐えられなくなったので、中断してゲーム実況を挟みました。それくらい手に汗握る展開が連続して襲いかかってきます。

 

もう一度、簡単におさらいすると

・差別するもの/されるもの、管理社会という設定で、

・バレたら一発アウトの緊張感ある生活を体感しつつ、

・主人公が周りに与えた影響が、美しく主人公の物語を締めくくる

という話です。

 

もっと話したいけどネタバレになってしまう…。というわけで以下ネタバレありの感想です。

 

  • よかったところ(ネタバレあり)

 

ここからはこの映画を観た人のみに向けて話します。こんな感じでだんだん白くしていていくので、読みたい人は反転文字とかで検索してみてください。では。

 

ズバリこの映画のテーマは「不屈の精神」にあると思います。

主人公が主人公たる理由、それは自身の人生にどんな障害があろうとそれを乗り越えてやろうとする気概です。そして、その気概を他の登場人物は持っていなかったとも言えます。

 

この作品のテーマが再提示される部分、それは刑事になった適正者の弟であるアントンとヴィンセントがガタカの中で再会したシーンです。ヴィンセントがどこかでへまをやらかして(まつげを落とした前科がありますからね)誰か別の人に捕まってしまうよりは、今ここで身分詐称を自白してくれた方が幾分か罪が軽くなると考えたアントンは、彼に対して自首を勧めます。しかしそれにヴィンセントは大反発。「俺に何ができて何ができないかは神はおろか、お前には決めることはできない」と怒りをぶつけます。

ヴィンセントの夢への執念と、アントンの警察官としての正義感。後に引けなくなった二人は若い頃のやり方で白黒つけようと海へ向かいます。遠泳です。

小さかった頃は体格の強い適正者の弟によく負けていたヴィンセント、しかし彼は宇宙飛行士を目指す過程で、適正者と自身との遺伝子レベルでの差を悠々と乗り越えました。

だんだん遠くなっていくヴィンセントに、アントンが尋ねます。「ヴィンセント、いったいどうしてこうなったんだ?」

ヴィンセントはただ答えます。「これまでも、ただ振り返らず泳いできたのさ。」

 

ぼくたち観客は、ここで気付きます。ヴィンセントは決して振り返らない。振り返らず、ただ夢をかなえるために不屈の精神であらゆる困難を乗り越え突き進んできたではないかと。

それまで緊張感あるシーンの連続で覆い隠されていたのですが、この映画がこれまで「彼の不断の努力」を丹念に描いていたことに、ここでぼくたちは改めて気づきます。序盤中盤は管理社会に対する恐怖や彼がそこからいかに逃げるかにばかり着目するよう作られており、意図的にそのテーマから目を離すように製作者たちはぼくらを誘導していたのでした。

終盤の終盤で「本当に伝えたいテーマはこれだ!」と種明かしをされたぼくたちは、物語が始まった時から、いや、彼が宇宙飛行士になると家を飛び出したその日から、彼はそのただがむしゃらに突き進む不屈の精神を持ち合わせていたのだということに気づき、物語に一層の厚みを感じることができるようになります。

 

そして、最後はその主人公の「不屈の精神」によって変わることができた「二人」の行動で、物語は締めくくられます。

 

一人はレイマー医師です。

彼は自分の息子と同じ不適正者でありながら宇宙飛行士にまでなったヴィンセントを「英雄」と考えていました。そこまで出演シーンは多くないのですが、最後の最後に「君に勇気づけられていたよ」と語り、主人公の「旅立ち」に手を貸してくれるのです。このシーンの時点ですでに涙腺はボロボロでした。

もう一人は「もう一人の主人公」ジェロームです。

完璧なDNAを持ちながらも二位にしかなれなかった男であるジェロームと、人より劣ったDNAを持ちながらも諦めなかった結果、夢をつかむことができた男であるヴィンセント。努力によってだんだんヴィンセントが「完璧なDNAを持つ男」であるジェロームに近づいていったように、彼を間近に見ることでジェロームもまた「夢へ向かって突き進む男」であるヴィンセントに近づいていきます。

最初は自身の夢と周囲からの期待に折れて悲観的になってしまった彼が、ヴィンセントと出会って変わるのです。彼が助けを求めた瞬間に車いすを飛び降り、「らせんへの抵抗」をしてしまうほどに、ジェロームは彼に思い入れがあったのでしょう。

ヴィンセントが夢をかなえ、「旅立ち」を行う瞬間、彼は完全に「ジェローム」となる必要があります。そのためにジェロームがとった行動に、その最後のロケットのイグニッションシーンとの演出も相まって、ボロボロと涙をこぼしてしまいました。

 

この映画は、「主人公の持つ不屈の精神がほかの登場人物に影響を与え、それが最後に主人公に帰ってくる」という点にぼくは美しさを感じました。

この精神は監督インタビューでも語られています。

アンドリュー監督が好きな物語は人間の意志の勝利や、逆境を甘受せず戦う人の姿を描くものだ。

 彼は遺伝子という逆境を甘受せず、不屈の意思によってそれをねじ伏せたのです。

 

  • 最後に

 

少し長くなってしまいましたが、以上が映画「ガタカ」を観た感想でした。

この映画は完璧なわけではありません。主人公の行動が軽率では…?と思えるようなシーンもいくらかあります。

この映画に派手さはありません。緊張感はあるとはいえ、派手なアクションシーンや金のかかったスタントシーン、小道具によってちりばめられた伏線が鮮やかに回収されるような展開もありません。

 

でも、それを差し引いても面白かったと断言できます。観終わった後に何かが残るような、そして勇気づけられるような、そんな映画でした。

最後になりますが、この作品をいつかあなたが手に取ってくださることを祈っています。もう少しだけ頑張ってみようかと思わせられる、そんな作品です。

 

ではでは。