後藤を持ちながら

後藤を持ちながら

吹奏楽から仮面ライダーまで

紫キャベツ

こんにちは、トサカです。

 

小学校の頃、給食中に全校放送で「読み聞かせ」が行われていました。放送委員の人たちが「その週の本」を全校生徒に聞かせるというものです。

一年生と六年生では6歳も差が離れているので、読む本の層がかぶりません。難しい本ばかりだと飽きられてしまうので、どうしても低学年に向けた絵本ばかりが選ばれていました。そういった毒にも薬にもならないような読み聞かせが多かった中、一冊だけ強く心に刻まれた本があります。今日はその話をします。

 

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とある小学生の女子がいました。彼女をAさんとしましょう。

Aさんは、他の多くの人と同じく自分の外見にコンプレックスを持っていました。ぱっとしない顔、魅力的ではない体つき、他の同級生の美しさに見とれ、同時に嫉妬していました。

そんな中、Aさんはとあるうわさを聞きつけます。「欲しいものが何でも手に入るおまじない」です。なんでも、紫キャベツの葉っぱにほしいものをマジックペンで書いて、それを食べればなんでも手に入るそうです。

Aさんは半信半疑になりながらも、紫キャベツの葉っぱに書き込みました。「Bちゃんのようなきらきらした目が欲しい!」。とても純粋で、かわいらしい願いです。

 

翌朝起きてみると、なんとAさんの目はそれまでとは打って変わって輝いていたのでした!鏡を見ると、かつての自分のぱっとしない目ではなく、まるでBさんのようなきらきらとした目がそこにはありました。おまじないはほんとうに効果があったんだ!彼女は素敵な目を手に入れて、自分の外見に自身がつきました。

しかし、少し時間が経つとほかの部分が気になってきます。Cちゃんみたいにきれいな鼻が欲しい。Dちゃんのようなすらりとした手足が欲しい。Eちゃんのように整った口が欲しい。彼女は紫キャベツのおまじないを使い、どんどん「理想」の身体を手に入れていくのでした。

 

ところ変わって職員室。とある先生が頭を抱えていました。これまで元気だった女の子が突然学校へ来ることを拒否しだしたのです。同級生に聞いても原因が思い浮かばない。友だちと不和があったわけでもなさそうだし、いきなりどうして…。

困った先生は、直接彼女の家に向かいました。直接本人から話を聞けば、何かわかるかもしれないと考えたのです。

彼女は先生が来たとわかると家のドアを開けてくれました。そこには、目の部分だけぽっかりと穴が開いたBさんが涙を流しながら立っていました…。

 

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ここで給食の時間が終わってしまったので、続きはわからずじまいです。気になる。めちゃくちゃ気になる。

 

この物語の恐ろしさ、そして魅力はこの「読み聞かせ」という特異な状況だからこそ生まれたものであります。例えばこれが小学生大好きな「怖い話大全!」的な本に収録されていれば、こちらもある程度「あ、このあとこのBさんは大変なことになりそう」という心構えができます。しかし、これまで「低学年向けの絵本」ばかり紹介していたコーナーで、まさかこんなに身の毛のよだつ話をされるとは夢にも思っていませんでした。

まったく警戒していなかったところから急に刺されてしまう恐ろしさ、ひやりとしてしまいました。

 

ぼくらがなんらかの物語を楽しむ時、本筋以外のあらゆるところから「この話はどんなものなのか」を推定します。タイトルを見て悲劇か喜劇かを判断し、キャストを見て主人公がどんな目に合うかを想像し、ポスターから肩の力を抜いてみるべきかどうかを考え…。

物語を楽しむうえで、ぼくは数えきれないほどたくさんの前情報を意識的にしろ無意識にしろ仕入れています。その前情報があるからこそ楽しめることもあれば、今回の「紫キャベツ」のように一切読み取れる前情報がなかったからこそ楽しめるものもあります。こういった形でいいものに出会うのはなかなか珍しいので、結構わくわくしました。

 

ちなみに、この続きが気になってしょうがないのでいろいろ検索をかけて探してはいるのですが、なかなか見つかりません。もし、この話がどんな本に収録されているかご存知の方がいれば教えてください。

 

ではでは。